爆弾と強盗


 深夜のとあるコンビニ。カウンターとレジがあり、店員がいる。

 男1が店に入って来る。

店員 いらっしゃいませ。

 男1が突然店員に銃を突きつける。店員は手を上げる。

男1 金を出せ!

店員 か、金?

男1 そうだ、金だ! この店に爆弾を仕掛けるぞ!

店員 わ、わかりました。はい。(自分の財布を出す)

男1 バカやろう! レジの金を出すんだ!

店員 …あ、あいにくレジは切らしておりまして。

男1 とぼけやがって…。そこにあるじゃねえか! この店が爆弾で吹っ飛ぶんだぞ!

店員 …は、はい。(レジの金を出す)

男1 手品で出せ。

店員 は?

男1 手品で出せと言ってるんだ!

店員 …鳩、ですか?

男1 金だよ!

店員 て、手品はできません。

男1 練習しとけ!

店員 ………。

男1 今日のところは手品じゃなくても許してやろう。いくらある? 数えてみろ!

店員 …えーっと…(金を数え)、三万二千円です。

男1 …少ねえな。増やせ! 投資とかで増やせ!

店員 い、いきなりは無理です。

男1 金は奥にあるんだろ? 持って来い! 店爆発だぞ!

店員 わ、わかりました。

 店員は奥の金庫から金を持って来る。その間男1は商品を物色している。

店員 …これで許してください。

男1 いくらある?

店員 (金を数え)二十万百六十円です。

男1 よ〜し、じゃあ俺はこのポッキーを買う。その金の中から支払うから差額をよこせ!

店員 …じゃあ(手渡し)二十万五十五円…。

男1 よ〜し、今から俺はこの金で爆弾を買って来る。それまでおとなしく店にいろ!

 男1は勢いよく飛び出して行った。

 店員が110番通報するため受話器をとる。その時、男2が入って来た。

店員 (電話で)もしもし、警察ですか?

男2 警察? 随分早く連絡するんだな。

 と言って男2は店員に銃を向ける。以下、ずっと銃を向けたまま。 

 店員は銃を向けられているため非常に焦り、自分でも何を言ってるのかわからなくなる。

店員 あっ…あの〜…え〜っと…。

男2 金を出せ!

店員 …さっき強盗に入られまして。

男2 今だよ。今入ったんだよ!

店員 …いや、あの〜、今、今入られまして。

男2 そうだ。

店員 …それで、金を二十万ばかり盗られて。

男2 まだ盗ってないだろ!

店員 え〜、まだ金を二十万盗られてないんですが…。

男2 二十万なんてケチな額じゃねえんだ。俺は百万必要なんだよ!

店員 …そうです。百万円必要で…。

男2 それがあれば借金返せるからな。

店員 …借金で百万必要なんです。…えっ、警察はサラ金じゃないって? …いや、違うんです、こっちが借りるんじゃなくて、こっちが…返すんです…よね?(と男2に同意を求める)

男2 そうだ。

店員 …返すんです、百万。…貸してないって? いや、あの…そちらじゃなくて、別のところに、返すんです…。

男2 小林と車のローンの返済にな。

店員 …小林のローンを車で返済、するんです。あれ…?

男2 違うだろ!

店員 と、とにかく返すんです…! それで金を盗まれた…いや、盗むつもりなんですけど、その金で爆弾を買うとか言って…。

男2 爆弾はもう買ってある! 

店員 …ええ、もう買ってあるんですけど…もちろん私が盗むんじゃなくて、爆弾買ったのも私じゃなくて…。

男2 というか材料だけ買って自分で作った。

店員 …あの、材料だけ買って手作りで、爆弾…いやだから私が作るんじゃなくて…。

男2 俺が作ったんだよ!

店員 そうです。俺が作りました。あっ…この場合の俺は私じゃなくて…また戻って来て店爆破するから…。

男2 だから、爆弾はもう仕掛けてある!

店員 …ええ、もう仕掛けました、でも戻って来ます…えっ? いたずらはやめてくれって…?

男2 (強引に受話器を奪い)これはいたずらじゃねえんだ! 俺は本気だ! 今日中に百万必要なんだ! …いや、だからお前らに金を貸せと言ってるんじゃなくて…(しかし電話は切れてしまう)。…ちくしょう。サツもなめやがって…。

 男2、受話器を戻す。

 店員、また電話をかけようとする。

男2 もうやめろ! あいつらは何を言っても相手にしてくれねえ…。さあ、おとなしく金を出すんだ。

店員 さっき金を盗られたばっかりで、一銭もないんです…。

男2 見え透いた嘘つくんじゃねえ!

店員 ほんとなんです! 

男2 …いいか。さっき俺はこの店に時限爆弾を仕掛けたんだ。一時間後には店もろとも爆発するって寸法さ。もっとも仕掛けてから十分経ったが…。さあ早く、百万出すんだ!

 そこへ男1が戻って来る。爆弾は持っていない様子。

男1 ちくしょう…。爆弾、どこで売ってるのかわからなかった…。

男2 (男1に銃を向け)誰だ!? てめえは。

男1 (怯え)ひゃっ…。俺は、この店の…強盗だ。

男2 店付きの強盗か…。ここ専門にやってるのか?

男1 (よくはわからないが)…ああ、まあな。

男2 (銃を向けるのをやめ)…それは悪かった。お前さんのシマを荒らしたことは謝る。

男1 …いや、いいんだ。

男2 さっき金を盗んだというのもあんたかい?

男1 ああ、そうだ。その金で爆弾を買って来ようと思ったんだが、どこで売ってるのかわからなくてね…。

男2 こんな深夜に爆弾売ってる店もないだろ。あんた、爆弾必要なのかい?

男1 ああ。この店に仕掛けようと思って。

男2 …実は俺、爆弾持ってるんだ。さっき店の裏手に仕掛けて来たんだが。

男1 えっ、本当か!

男2 時限爆弾でな、あと五十分ほどで爆発するんだ。

男1 その爆弾、譲ってくれないか? もちろんタダでとは言わん。

男2 百万円でどうだ? ちょいと今日中に入り用でな。

男1 …高いな。

男2 一時間モノの時限爆弾にしては安い方だぜ。

男1 …そうか。じゃあ、買おう。

男2 早速金をいただこうか。

男1 …すまん。今これだけしかないんだ…。(と盗んだ二十万五十五円を出す)

男2 おい! 話が違うぞ!

男1 残りの金は必ず何とかする…。

男2 まあローン組んで分割払いにしてもいいんだが…。

男1 本当か?

男2 ああ、だが爆発までには必ず用意しろよ。十分毎に二十万円だ。この金は初回の二十万として預かっておこう。あ、それから、特別に無利息でいい。短時間のローンだからな。

男1 それはすまない。(店員に)おい、練習したか?

店員 何ですか?

男1 手品だよ。

店員 いえ、してませんが…。

男1 バカ! 何やってたんだ。

店員 それどころじゃなかったもので…。

男1 (男2に)ちょっと、あの…。

男2 何だ?

男1 (急に腰が低くなり)…こいつの手品で金を工面しようと思っていたんですが…どうもこいつが出来損ないなもので…いや、あのね、金の都合はつくんですよ、ただね、今ここでってわけにはいきませんで…ちょいと山一つ越えたところに私の知ってるコンビニがありまして…。

男2 まあ出ても構わんが…。

男1 そりゃどうも。ただ、車で行って帰って来ても一時間はかかってしまうからどうしても爆発には間に合わないんです…。

男2 う〜ん、十分遅れるくらいだったら許してやろう。

男1 ありがとうございます。タクシー代は必要経費として認めていただけますか?

男2 …まあ、いいだろう。

男1 ピューッと行ってサーッと帰ってドーンと八十万返しますんで。それから、こいつを担保に入れときます。(と店員を差し出す)

店員 な、何で私が…。

男1 では!(と店を出て行った)

 間。

 男2は店員に銃を突きつける。

男2 …今度からは金の受け渡しがスムーズにいくように手品練習しとけよな。

 時限爆弾のカチカチという音が聴こえてくる。その音が次第に大きくなるのに比例して、溶暗。


池田繁ページ  日本電脳穿隊INDEX